現在の診療棟建設計画が持ち上がった当時、従来、病院は無機質で画一的な内装が主流だった医療の場にアートワークを取り入れることで、患者の心理的な圧迫感を軽減し、不安を和らげるような取り組みに関心が集まっており、当院でも導入することになりました。
イメージの具体化・視覚化については、パブリックアートのプロである「株式会社タウンアート」にお願いし、デザイナーは、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のセット衣装などを担当された、ひびのこづえさんにお願いしました。

新病棟は「春の陽ざしと新緑の芽生え」がコンセプトで、子どもとそのご家族も穏やかな空気に包まれた安心できる場所になることを願っていました。ビビットでエネルギッシュなデザインがいいという意見もありましたが、病院は決して楽しい場所ではなく、見かけをいくら楽しそうに装ったところで、実際にこどもが体験することはきついことだったり、辛いことだったりするし、さらに状況によっては、ご両親にとって非常に苦しく重い時間をすごすことになる場所にもなります。周囲にいくら楽しそうなアートがちりばめられていても心を慰めることはできません。

特に病棟部分のアートワークでは、病棟は子どもとご家族が長い時間を過ごす場所なので、より利用する方の気持ちに寄り添うような穏やかな空間にすることが望ましいと考え、主張のある色、形は避け、抽象的で淡い色彩の、見ていて心地のよいアートワークをさりげなくあしらうようにしました。
壁に添えられるアートは時に菜の花に見えたり、つくしんぼに見えたりするように、曖昧な形だったり何か分からない動物のシルエットだったりするものが多いです。子どもたち、ご家族、スタッフが一緒に眺めて、それぞれのイメージを膨らませて会話の糸口になるようなものです。

外来スペースのアートワークは、外来は「時々訪れる場所」なので、病棟より多少動きがあり子どもが好むモチーフも取り入れています。壁には春、小動物、むすなどをかたどった希望を予感させる穏やかなアートを子どもの目線にくるよう低い位置にあしらっています。大人も子どもも落ち着かせるような雰囲気の中には「静かにまとうね」というメッセージも含まれています。

この、医師、設計者、アーティスト、ディレクターが、それぞれの立場、役割をもって意見を交換しあってつくりあげた、福岡大学病院小児医療センターと外来のアートワークは、私たちのクレドである「その子どもの幸せのために。」と、私たちの思いを見事に汲み取った仕上がりとなり、見事、第5回キッズデザイン賞をいただくことができました。